旅ノート 絵本の館 剣淵町
時の経つのを忘れるほど熱中することと言えば,麻雀と本屋でのウォッチング。
わけても絵本棚の前に立つと心が和む。
本の虫と言うほどではないが、子供の頃、それも小学生の頃は同級生と競って本を読んでいた。分けても絵本は内容よりも絵の美しさに惹かれ何度もページを捲っていた様な気がする。この歳になっても絵本を手にするのは楽しい。
絵本館は、全国に約50箇所、殆んどの県に1,2館あるようで北海道は道北、剣淵町の絵本館が全国的にもその名が知れ渡っている。
剣淵町の絵本館は、道北の小さな町に「夢と活気を」との志を抱いた町の有志によって作られた館でスタートは20年前にさかのぼる。
パリから帰国して隣町の士別市に住んでいた版画家で絵本作家の小池暢子さんとの縁で、剣淵町を訪れた児童文学研究者の松居友氏が,この町の景色が何処となく南フランスの田園風景に似ていると言うことから、こんな環境の中に絵本の美術館があったらとの雑談から絵本館構想がスタートしたそうです。
絵本とは無縁の商店街の店主や、農家の若者達が酒を酌み交わしながら絵本を核としたまちづくりに奔走している姿を想像すると、何かそれ自体、ほのぼのとした絵本の世界のような気がします。
そういえば、私を案内してくださった館長を務めてる教育委員会の竹内佳明氏も、突然アポも取らずに訪ねた何処のオバハンとも知れない人間に対して、懇切丁寧、しかも説明に手抜きが無い。絵本への熱い思い入れが伝わってきて、私は次の仕事を忘れて ほんわか気分になった。
蔵書は絵本と一般の児童文学書、伝記、歴史物、アニメなどの他に、大人向きの一般教養書や趣味、実用書など約5万冊。
吉永小百合の写真集や李香蘭「私の半生」それに野球の清原の「男道」など最近のベストセラー本もある。
懐かしかったのは栗谷川健一の画集。50年近く前、駆け出し記者をしていた頃、氏のところへ取材に行ったことを思い出してしばし足が止まった。
嬉しかったのは長谷川町子の「サザエさん」「いじわるばあさん」。
これぞ漫画の中の漫画と思っているのでいずれゆっくり読みに伺おうと思う。
絵本は海外のものや、飛び出す仕掛けの立体的な本、手作りの本、布製の本、わけても私が驚いたのは何判というのか新聞紙を広げた超大判の絵本。とても重くて持てない。
紙芝居のように立てかけて読み聞かせるそうだ。絵も字も大きいのでこれなら後ろの席でも見えていいなあと感心。
剣淵町の「絵本の館」を、日本中に広く知らしめたことのひとつに「けんぶち絵本の里大賞」。
前年に出版された絵本の公募の中から来館者の投票で大賞を決めている。大賞の選考が何処そこの大先生ではなく、来館者の投票で決めていることで、大勢の人の感想が反映されているわけだ。
賞金の他に副賞として地元の農産物3年分を贈るようにしているそうで、何ともスケールが愉快だ。
1991年からスタートして今年で19回目になる。
第1回目は「おばあさんのすーぷ」2回目が私の好きな、いもとようこの「ぼくはきみがすき」。いもとようこの描く絵は登場人物が動物でも愛らしくて自然と笑みがこぼれる。
15回目が世界的にも話題になった「もったいないばあさん」。16回そして昨年18回目もこの「もったいないばあさん」のシリーズが受賞している。
第1回目の時は応募数142点。それが昨年は311点と関心度を増してきている。このことは町民の意識の中に絵本の館が町の共有財産として根づいているように感じられた。
この絵本館で感動したことのひとつに建物のデザイン。
木とコンクリートを組み合わせたシンプルな造りで、メルヘン風の子供チックでないのが私好み。
それに写真を見ていただくとお分かりになるとおもいますが、柱にぬいぐるみの猿親子がよじ登っているディスプレイ。これが何ともユーモラスで、随所にこう言うほのぼのセンスが感じられる。
ユーモラスなディスプレー
絵本の原画は内外合わせて約1000点収蔵されていて、特別に観せていただいた。
美術館並みの空調設備を施した部屋で、大事に取り扱われている様子で、年に数回大賞を受賞した原画展や道内作家の作品展などが企画されている。
絵本は子供時代だけのものでなく、70歳のこの年になっても楽しさや感動に出会える世界が沢山ある。
最近は、妖怪やグロテスクな絵柄の絵本も出版されているが、私は薄気味悪く、描く作家の神経に異常さを感じる。絵本の世界にホーラーやバイオレンスは持ち込まないで欲しいと願う。
この頃は、読書に絵本を選ぶ余裕はないが、時間が出来たらファーブルの昆虫記を読んでみるつもりでいる。奥本大三郎訳の全20巻、大岡信訳などいろいろな出版社から刊行されているが、子供向きに書かれた絵一杯、字の大きい本を選ぼうと思う。
断っておきますが、まだ字を読むのにメガネを必要としておりませんから・・
勿論ハスカップのおかげです。
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卵ドームの中は木製の砂場 入り口には折り紙の花いっぱい
ハスカップ 三ツ野由希子